スポーツの試合に勝者と敗者はつきものだ。勝利の立役者となった選手を讃えるのは当然とはいえ素晴らしい事である。選手にとって励みになるだけではなく、チームの他選手も後に続こうと切磋琢磨する。案外こういうところがチームを活性化させ、勢いづかせるものだ。
だが、敗戦を決定的にしたプレーをしてしまった選手を罵倒する雰囲気がある事も事実である。これは日本に限らず多かれ少なかれ世界中で起こっているが、つい先日のサッカーJ1の年間王者決定戦「鹿島アントラーズVS浦和レッズ/第2戦」で、相手FWを引き倒したとしてPK(ペナルティーキック)を取られてしまった浦和のDF槙野選手を、まるで犯罪者のように書いているマスコミがあった。
チャンピオンシップ22戦の79分、クリアミスから鹿島若手FWの突破を許した揚げ句、ペナルティーエリア内で背後から倒してしまい、決勝点となるPKを献上という日本代表とは思えないミスを犯し、浦和のJ1王者とクラブW杯の出場権をフイにした。一体何億円の損失を与え‥‥‥等と名指しで書かれている。
クリアミス云々とか書いてあるが、DFにはクリアミスが、FWにはシュートミスが付き物である。試合はサイボーグでもターミネーターでもなく生身の人間選手がやっている。シュート決定率100%のFWが存在しないのと同様、防御率100%のDFもGKも居る訳がないのである。必死にプレーしていてもミスが出る。さらに相手FWを引き倒したとあるが、槙野選手にしてみればボールを奪われたから必死に追いかけて止めに行っただけの話で、相手が倒れてPKになってしまったのは結果論でしかない。あそこで必死に追わずに居れば、相手FWにそのままシュートを決められていた確率が高い。PKならば味方GKが上手く行けば止めてくれる確率もある。槙野選手のプレーは非難を受けるどころか、DFとして当然のプレーなのである。
何よりも、槙野選手本人が断腸の思いだったろう。試合終了のホイッスルが鳴っても浦和の味方選手は誰一人として槙野選手をなじったりしなかった。むしろフォローに駆け付けていたほどだ。後日のサッカー関係者のコラムでも槙野選手を非難する文章にはお目に掛かっていない。少しでもサッカーに詳しい人間なら、槙野選手のあのプレーでのPK献上は不可抗力だと判るからだ。
しかし、一部の心ないマスメディアが頓珍漢な記事を書く。槙野選手本人はどう思うだろう。第一、記事を書くならサッカーの基本を知っている人間に執筆させるべき。記事を読んだ時「のけぞった」のは私だけではあるまい。
執筆者は「言論の自由」だとか嘯(うそぶ)くのだろうが、こういう意識で文章を書きなぐる人間はどの分野でも自称通のアマチュアなのだ。滑稽でしかない。(第三者から反撃されたらフテくされて首でも吊ったりしてね…笑)
槙野選手は、最近中国王者の広州恒大から年俸は言い値という破格のオファーを受けていたが、先日断りを入れたことが判明している。ブラジル代表監督などを歴任した名将フェリペ・スコラーリ監督が直々に指名するなど高い評価を受けていたが、槙野選手は当然のように浦和に残る決定をした。数十億円の契約を断って古巣の広島カープに復帰した黒田投手を彷彿とさせる男気ではないか。