フェリックス・ブリューメンフェリト( Blumenfeld,Felix Mikhaylovich/Блуменфельд,Феликс Михайлович 1863年~1931年)は、帝政ロシア時代からソ連時代初期にかけて、ペテルブルグ音楽院~キエフ音楽院(現ウクライナ国立チャイコフスキー記念音楽院)~モスクワ音楽院にてピアノ科教授をつとめ、キエフ音楽院ではヴラディーミル・ホロヴィッツ、モスクワ音楽院ではマリア・グリンベルグを育てた名教授である。
ブリューメンフェリトはペテルブルグ音楽院時代にアントン・ルービンシュタイン(ペテルブルグ音楽院創立者)にピアノを、リムスキー=コルサコフに作曲法を師事。音楽院卒業後(1885年)すぐに母校ペテルブルグ音楽院のピアノ講師になる。1895年にはマリンスキー劇場でオペラ指揮者としての活動も開始。
1897年再びペテルブルグ音楽院に教授として復帰し、指導活動にも活躍の幅を広げる。しかし、神経系統の疾患により次第に右半身に麻痺がおこって演奏活動が困難になって来たために、キエフ音楽院教授時代からは指導と作曲のみに専念するようになる。作曲されたピアノ曲に左手が雄弁な曲が多いのはそのためだ。
中でも明確に左手のために作曲されたのが、
ブリューメンフェリトの曲はプレリュードを除けば演奏至難なものが多いが、ピアノでカンタービレ(歌心)を・・・という指導上の指針にも沿ったものでもあった。ブリューメンフェリトの曲は、カンタービレ(歌心)無くして演奏する事は出来ない。
キエフ音楽院時代にヴラディーミル・ホロヴィッツがこの曲を弾いたのかどうかは判らないが、担当教授だったブリューメンフェリトの影響は極めて顕著だったと推定される。20代の頃のホロヴィッツの古い録音は、驚異的なテクニックもさる事ながらカンタービレ(歌心)に満ち溢れた演奏で、ホロヴィッツの全盛期は実はこの時期だったのではないかと思わせるほどだ。おそらく、師ブリューメンフェリトから伝承された「何か」があったのだろう。ホロヴィッツの録音には「 左手のためのエチュード 変イ長調 Op.36 」 は見当たらないようだが、ホロヴィッツならばどう弾いたか・・・・を想像するとワクワクする。
現在ではCDはもちろん、YouTube でも見掛けるほど知られた曲になって来たので、楽譜付き/スタジオ録画/コンサート・ライヴ録画の3例をご紹介したい。
YouTube【1】 ⇒ ブリューメンフェリト・左手のためのエチュードOp.36(Piano:Daniel Blumental/楽譜付き)
YouTube【2】 ⇒ ブリューメンフェリト・左手のためのエチュードOp.36(Piano:James Rhodes/スタジオ録画)
YouTube【3】 ⇒ ブリューメンフェリト・左手のためのエチュードOp.36(Piano:Antonio Iturrioz/コンサート・ライヴ動画)
ブリューメンフェリトのピアノ曲は後期ロマン派の雰囲気を残した美しいものが多く、ピアニストのみならず愛好家のレパートリーや教材としても非常に魅力のあるものだ。
ほぼ同時代を生きた
ブリューメンフェリト
他にも、リスト、アルカン、スクリャービン、ゴドフスキー、モシュコフスキー、バルトーク、カルクブレンナーなどあらゆる作曲家による左手のためのピアノ作品が集められている。